ヘルツの電磁波発見の実験を再現
今日の物理は昨日の授業の続きで,ハインリッヒ・ヘルツ(1857-1894,ドイツ)が1885年から4年かけて研究した「電磁波の存在の実験的証明」で行った実験の再現です。
実験は9月の終わりに金沢工業大学の「原論文より学ぶ講座」で知った,ヘルツのやり方をまねしました。
これが実験装置の全体像。誘導コイル以外はホームセンターで買ったものばかりです。送信側がアルミ板と6mmアルミパイプ。受信側が3mm真鍮棒。電極にはパチンコ玉と鉄釘。アルミは半田付けできないので,すべてセロテープで組み立てました。
送信側は発砲スチロール板の上に置いてあるだけですが,受信側は真鍮棒が転がらないように,セロテープで固定してあります。
すでに多くの先輩方がヘルツの再現をやっています(文末参考文献参照)。それらを参考に作ってみました。寸法や材料,セッティングは予備実験の試行錯誤で決めました。
しかし,いきなりこんな実験を見せても生徒たちには意味が分からないでしょう。前座が必要です。
それで用意したのがこれ。「ピッピ―ポケベル」というタカラトミーのおもちゃ。ポケベルなんてもう今時の高校生には前世紀の遺物です。20世紀のおもちゃなのですが,これがとても電磁波の理解に役に立ちます。
スイッチがないので,普段は電池の間にプラ板を挟んであります。
どんなおもちゃなのかはこの動画を見てもらいましょう。
カチッとさせるとLEDが光ってピーピー音がします。チャッカマンでも同じことができます。これはライターの圧電素子で火花放電が飛ぶと,離れた場所のポケベルが反応するという仕組みです。
火花放電という「電子の急な動き」が「急な電場と磁場の変化」を引き起こし,それが離れた場所に伝わるのです。これは電磁誘導が離れていても起こることを示しています。このとき空間を伝わるものが電磁波なのです。つまり「電磁波を作るには火花放電させれば良い」ということ。
ヘルツは静電気実験のとき,ライデン瓶にためた静電気の火花放電が,離れた場所のライデン瓶にも火花放電を起こさせることに気がついたと言われています。これがヘルツにとってヒントになったかどうかは分かりませんが,生徒たちには十分理解できます。
静電気の火花では一瞬しか電磁波は発生しません。どうやったら連続的に電磁波を作れるのでしょうか?
そう,それは連続的に火花を飛ばせば良いのです。しかも強力にです。この装置は専門的には「RLC回路(抵抗・コイル・コンデンサ直列回路)」といいます。アルミ板がコンデンサ,アルミパイプがコイル(まっすぐな電線と思えば良いです),パチンコ玉の間の空気が抵抗って考えれば良いのでしょう。こうやってつなぐと,放電がすごい速さで行ったり来たりして,速い電流の振動を作れるのです。それでヘルツの原論文のタイトルは「非常に速い電気的振動について」なのです。
そこで最初に見せた実験装置にたどりつきます。誘導コイルで火花放電を連続的に作り,発生した電磁波を受信すれば良いのです。
ヘルツはこの実験で「離れた場所にも電磁波によって電磁誘導が起こり,振動した電流が流れて火花が飛ぶ」と予想したのです。
ではさっそくやってみましょう。
放電から離れた電線に火花が飛んでいます。電磁誘導は離れていても起こるのです。放電しながらパチンコ玉の間の距離を変えることで,最も受信側の火花が出やすいところを探すことができます。
金沢工業大学の講座では,野口啓介教授が「放電距離を変えるとインピーダンスが変化するためではないか」と述べていました。あまり専門的なことはここでは書きませんが,インピーダンスというのは「交流回路での電気抵抗」と言っても良いでしょう。今回,放電で作っている「電流の振動」は「交流」そのものです。すきまを変えることで,回路の抵抗が変わり,発生する電磁波の振動数(波長)が変化するのでしょう。
この装置は発砲スチロール板に乗せているだけなので,放電しながら,最適なすきまの長さを見つけることができます。そして受信側のアンテナ線の長さに合った波長を持つ電磁波が一番効率よく受信できます。
どこまで火花が出るか離してみました。だいたい30cmが限界のようです。
ヘルツの実験では実験装置も幅3mと大きく,数m先でも火花を観測していますから,私の作った電波よりはるかに強力だったと考えられます。その結果,ヘルツは電子レンジより強い電波を何年も浴びて,健康を害して早死にしてしまったそうですから,完全にまねするわけにはいかないですね。
生徒たちも十分納得して楽しんでくれたので、これぐらいで十分です。
動画でもその様子を見てもらいましょう。
火花での受信は近くでしかできないので,金沢工業大学の講座でもらってきたLEDの受信装置も使いました。
アンテナはアルミパイプで左右に1mずつの全長2m。
これらの寸法は試行錯誤して決めました。
これもビデオで見てください。今回の電磁波の波面は水平方向なので,アンテナを水平にした方がLEDは明るくなります。
この受信機では物理実験室の部屋一杯に感知できました。生徒もこれを持って部屋のあちこちを調べていました。
ヘルツがやった反射や干渉の実験は,この装置の予備実験でははっきりしなかったので,再現はあきらめました。たぶんこの装置の電磁波は波長がかなり長いのでしょう。
今回やってみて,火花はちゃんと見えるんだと確認できたのが収穫です。生徒たちもしっかり火花を見て,どこまで届くかもやっていました。スチロール板に乗せてあるだけなので,放電しながら自由に動かして試せるのが良かったようです。
この装置はセロテープで作るだけですから,お手軽に作れます。ピッピ―ポケベルは今では入手困難ですが,火花を見せるなら誘導コイルが学校にあれば簡単にできますね。
参考文献
(1)野口啓介,「ハインリッヒ・ヘルツは何を考え,何を見たのか~電磁波発見の経緯を原著論文より学ぶ~」(金沢工業大学「原著から学ぶ科学技術講座」テキスト,2018.9.29)
(2)丸尾樹範「ヘルツの実験をやってみよう」(「日常生活と関連させた物理の授業づくり~電磁波分野の効果的な指導法を提案します!」,佐賀県教育センター 平成17年度の研究成果より「高校 物理」)
(3)海老崎功「効果的なヘルツの実験用発振器」
(4)海老崎功「小型ヘルツの実験装置」
(5)萬處展正「高校物理アシストサイト「アシスト君」」,「ヘルツの実験」
実験道具
このアルミ板を切らずに使っています。放電側(発信側)アルミパイプは50cmに切って使いました。受信側は予備実験ではアルミパイプよりも真鍮線の方が火花が良くでました。真鍮線の方が電気抵抗が少ないからかもしれません。パチンコ玉(鉄球)はセロテープでアルミパイプにつけました。セロテープがあっても放電に影響はありませんでした。
放電用の誘導コイルは理科教材用に売られていますが,多くの中学・高校では備品としてあるでしょう。
・アルミ板
・鉄球
・アルミパイプ 1m