古代ローマ帝国のカバ銀貨
今回の古代ローマ帝国のカバコインコレクションは2015年の記事でも紹介した,皇帝フィリップスの妻オタキリア・セウェラの銀貨です。あるローマコイン専門オークションサイトで見つけて最近入手。
以前紹介したものよりも状態の良いコインで,カバの刻印もくっきり残っています。発行年は248年ですから,今から1800年前のものです。
カバの上の文字はSAECVLARES AVGG(Saeculares Augustorum アウグストゥスたちの世紀祭の意味)。カバの下のIIIIは4の意味。皇帝フィリップス(在位244-249)の治世4年目の意味でしょう。AVGはAUGUSTUS(アウグストス)の略で,初代皇帝に与えられた尊称です。その後は「皇帝」の代名詞となりました。AVGGとGを重ねているのは,皇帝が二人いたからです。フィリップスの息子が皇帝の跡継ぎとして擁立されていたのです。
表はオタキリア・セウェラです。きれいな人ですね。
表面にはOTACIL SEVERA AVG(Otacilia Severa Augusta オタキリア セウェラ アウグスタ)。皇妃オタキリア・セウェラの意味。
ローマ帝国の言葉であるラテン語は,大文字しか無くて,区切りのピリオドやコンマも無かったので,文字がずらずら続いて現代人には読みにくいです。
このコインはフィリップスが催した「ローマ建国1000年祭」でコロッセウムに展示された動物たちを記念して発行されたものの一つです。お祭りは盛大でしたが,当時のローマ帝国は蛮族や隣国との国境防衛戦争が続き,経済的に衰退しつつあったころです。お金の質も最盛期からはずいぶん低下して,これは表面だけ銀で中身は銅です。
このカバはエジプト属州から地中海を越えてローマに連れてこられたのでしょう。
このコインを出した翌年,249年にフィリップスは反乱者デキウスとの戦争に負けて死んでいます。後継者の息子も殺されました。彼女がその後どうなったかは記録がありません。
200年代は皇帝が短期間で殺され,次々と交代していった時代でした。
幻のように移りゆく権力の一時の輝きがこのカバです。
この後のコインは材質だけでなく肖像の彫刻の出来も落ちていき,コインを作る職人の質も低下していきました。
文献
・Parisii古代ローマ帝政期銀貨
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・David Sear『Roman Coins and Their Values III: The Accession of Maximinus I to the Death of Carinus Ad 235 - 285』2005
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